第 3 回 回路の接続と特性(1)

本日の内容


3-1. 宿題の解答

宿題

次の回路の電圧利得を求め、 C,RLに適当な値を入れ、 周波数と利得の関係を示すグラフ(両対数)を書きなさい。

解答

角周波数ωの正弦波を入力して、複素数を用いた回路方程式を 解きます。回路を流れる電流を Iとします。

V1 = (1/jωC + RL)I
V2 = RLI

           RL
V2 = ------------ V1
      1/jωC + RL


       jωCRL
Av = ---------
      1+jωCRL

これに対して、 ωCRLが 1 よりかなり大き い時と、かなり小さい時とに場合分けし、近似を考えます。 ここでω0 = 1/(CRL) と置くと次のように 分析できます。

ωω0の時
       jω/ω0
Av = ---------
      1+jω/ω0
        jω/ω0
    ≒ --------
          1

    =  jω/ω0

    =  (ω/ω0)ejπ/2
ωω0の時
       jω/ω0
Av = ---------
      1+jω/ω0
        j/ω0
    = --------
       1/ω+j/ω0

        j/ω0
    ≒ --------
        j/ω0

    = 1

つまり、電圧利得の大きさは周波数が 1/CRLより十分小さい時は周波数に比例し、 周波数が 1/CRLより十分大きい時はほぼ 1 になることがわかります。 また、位相のずれは周波数が 1/CRLより 十分小さい時は 90 度遅れ、 周波数が 1/CRLより十分大き い時はほぼずれないことがわかります。

従って、電圧利得の大きさを両対数のグラフで書くと 1/CRL より左側の領域では 6dB/oct の右 上がりの直線、右側の領域は 1 になります。

3-2. 電子回路の復習(1)

バイアス

トランジスタには遮断、活性、飽和の三状態があり、線形電子回路に使用する場 合は、活性状態にしなければなりません。 そのためには FET ではゲート、ソース間、J-TR ではベース、エミッタ間に一定の電圧をか ける必要があります。 これをバイアスといいます。

自己バイアス回路では電源やアースと端子が抵抗で接続されます。 また、J-TR 回路ではベース電流を制限しなければなりませんので、どのようなバイ アス回路でも、電源やアースと端子が抵抗で接続されます。

一方、バイアスをかける端子と信号の入力の端子は共用されます。 従って、信号の解析をする場合、信号線は抵抗を通して接地されると考えなけ ればなりません。 よって、トランジスタ増幅回路を線形四端子網と考えた時、バイアス回路を 考慮した等価回路はつぎのようになります。


3-3. 増幅回路の結合(1)

複数の増幅回路を結合すると大きな利得が得られます。 しかし、単純に結合して良いわけではありません。 ここでは結合のし方とその特性を議論します。

以下の議論では増幅回路1に増幅回路2を結合することを考えます。増幅器の記 号を次のように導入します。

直接結合

前節で復習したように、トランジスタ増幅回路の入力端子にはバイアス電圧が 必要です。 したがって、増幅回路 1 の出力を増幅回路2に接続する場合、増幅回路 1 の 出力の直流電圧を増幅回路 2 のバイアス電圧に調整する必要があります。


この場合、出力利得は追加した抵抗により落ちます。さらに、バイアス電圧の 変動は回路の特性を大きく変えるため、微妙な出力電圧の変動が増幅回路2の 動作に影響を与えてしまいます。

このような問題に対して、教科書ではいくつかの対応策を紹介しています(pp.103-104)。

コンデンサ結合(CR結合)

直接結合では、出力の直流電圧が問題でしたので、増幅回路1と増幅回路2をコ ンデンサで接続することを考えます。 すると、増幅回路1の直流電圧が増幅回路2に直接行きません。

但し、コンデンサが存在するため回路の特性が変化します。 ここでは増幅回路1の特性は考えず、コンデンサにより結合することで、どの ように特性が変化するかを次の等価回路により調べることにします。 また、簡単のため h12=0, h22=∞ とします。



I'1の計算

                       1           1
合成インピーダンス = ------------ + -----
                     1     1      jωC
                    --- + ---
                     RB    h11

                     RBh11      1
                 = ------- + ------
                     RB+h11    jωC

                    jωCRBh11+RB+h11
                 = ----------------
                    jωC(RB+h11)
      jωC(RB+h11)
I1 = --------------- V1
      jωCRBh11+RB+h11
        RB
I'1 = ------ I1
      RB+h11

          jωCRB
    = --------------- V1
       jωCRBh11+RB+h11

電流利得、電圧利得

        RC
I2 = ------ (-h21I'1)
      RC+RL

          RC        RB
   = - ------ h21 -------- I1
        RC+RL       RB+h11

         RC        RB
AC = - ------ h21 --------
        RC+RL      RB+h11
V2 = RLI2

         RCRL          jωCRB
    = - ------ h21 --------------- V1
        RC+RL       jωCRBh11+RB+h11

         RCRL          jωCRB
Av = - ------ h21 ---------------
        RC+RL       jωCRBh11+RB+h11

分析

Avの複素数を含む部分を、 1+xとなるように変形し、x≪1 の時は 1, x≫1 の時は x と近似することにより、特性を調べま す。 右側の分子分母をそれぞれjω CRBh11で 割ります。

        RCRL     h21         1
Av = - ------  ----  ---------------
        RC+RL    h11         RB+h11
                      1 + ---------
                          jωCRBh11

ここで (RB+h11)/( ωCRBh11) と 1 との大小関係を考えて分析します。 ω0= (RB+h11) /(CRBh11) と置くと、これは ωω0 の大小関係を 考えることになります。 一方、βをつぎのように置きます。

        RCRL     h21
β = - ------  ----
        RC+RL    h11

すると、Av はつぎのように変形できます。

             1
Av = β -------------
        1 + ω0/(jω)
ωω0 の時
分母は 1 が消えて、ほぼ ω0/(jω )になります。
           1
Av = β ---------
        ω0/(jω)

          1
    = β ---- jω
          ω0
ωω0 の時
分母はほぼ 1 になります。
           1
Av = β ---------
           1

    = β

従って周波数特性を表す両対数のグラフは次のようになります。

また、 ωω0 の時は位相が 90 度遅れますが、 ωω0 の時はほぼ位相はずれません。

(参考)コンデンサがない場合

もし、何の部品も付加せず直接接続が可能だった場合の利得を求めます。

                       1
合成インピーダンス = ------------ 
                     1     1
                    --- + ---
                     RB    h11

                     RBh11
                 = -------
                     RB+h11
      RB+h11
I1 = -------- V1
      RBh11
        RB
I'1 = ------ I1
      RB+h11

        1
    = ---- V1
       h11
        RC
I2 = ------ h21I'1
      RC+RL

        RC        RB
   = ------ h21 -------- I1
      RC+RL       RB+h11

       RC        RB
AC = ------ h21 --------
      RC+RL      RB+h11
V2 = RLI2

       RCRL       1
    = ------ h21 ---- V1
      RC+RL       h11

       RCRL    h21
Av = ------  -----
      RC+RL    h11

     =β

結局、電圧利得は周波数に関わらず β で一定になります。

3-4. 宿題

次の FET による増幅回路の周波数特性を求め、グラフを書きなさい。 但し、相互コンダクタンスは gm で表し、 ドレイン抵抗は∞とします。

ヒント

等価回路は次のようになります。


坂本直志 <sakamoto@c.dendai.ac.jp>
東京電機大学工学部情報通信工学科