第 6 回 回路の接続と特性(4)

本日の内容


6-1. 宿題の解答

宿題

次の回路に対して、右側の回路を左側の回路に埋め込んだ形の等価回路を求め なさい。

解答

まず成立する式を整理します。


V_Y = frac{1}{n}V_X , I_Y = n I_X

V_1 = V_X, I_1 = frac{V_1}{j omega L} + I_X , V_2 = V_Y, I_2 = I_Y, V_2
= I_2 R_L

左側の回路を右側の回路に埋め込む場合は、 VYIY の関係を求めましたが、同様に VXIX の関係を求めます。


V_X = n V_Y = n V_2

I_X = frac{1}{n} I_Y = frac{1}{n} I_2

frac{1}{n} V_X = n I_X R_L

V_X = I_X n^2 R_L

最後の式の関係から、回路には n2RL が接続され ているのと等価になります。

6-2. 変成器による接続(2)

変成器による増幅器の接続

変成器の出力は、アースとの電位差ではなく、両端の電圧を取り出します。

第3回で復習した「バイアスを考慮した増幅回路」同士を変成器で接続する場 合、変成器の出力の繋ぎ方には二つのパターンがあります。

(1)変成器の一端をアースに接続する場合

この場合、変成器は直流を流しますので、このままではバイアス電流がすべて アースに逃げてしまいます。 従って、変成器と直列にコンデンサを接続する必要があります。

この接続に関して周波数による変化を解析します。 増幅器の入力側は、内部に入力抵抗 Riあるだけ と見なすことができると仮定します。また、コンデンサの影響を考えると複雑 ですので、ここではコンデンサの影響を受けないくらい十分周波数が高い状況 であると考えます。つまり、コンデンサを導線に置き換えます。

この時、増幅器に直接信号を入力することと、変成器を使って入力することを 考えます。


始めに、変成器なしの回路に関して考えます。


V_i = V_1

I_i = frac{frac{1}{R_i}}{frac{1}{R_B} + frac{1}{R_i}} I_1

次に変成器を使った回路を考えます。等価回路はつぎのようになります。


V quote_i = frac{V_1}{n}

I quote _i = frac{ frac{1}{R_i}}{frac{n^2}{j omega L} + frac{1}{R_B} +
frac{1}{R_i}}  n I_1

frac{V quote _i}{V_i} = frac{1}{n}

frac{I quote _i}{I_i} = n frac{ frac{1}{R_B} + frac{1}{R_i}} {frac{n^2}{j
omega L} + frac{1}{R_B} + frac{1}{R_i}}

~ = n frac{1}{frac{n^2 R_B R_i}{j omega L ( R_B + R_i )} + 1 }

これはωn2 RB Ri / (L( RB + Ri )) より十分小さい時は分母の 1 を無視できるので ωに比例し、 十分大きい時は一定値 n になります。

(2)変成器とバイアス抵抗を直列に接続する場合

この場合、変成器の生じる電圧はバイアス抵抗と増幅器にそれぞれ分圧して しまい、効率が悪くなります。従って、信号成分は分圧されないようにバイア ス抵抗に並列にコンデンサを接続します。

変成器を使用するメリット

実際の変成器は小さいながらも抵抗を持った長い線により構成され、また 磁界を発生させるコアの性質が及ぼす影響もあるため、完璧な等価回路は次の ような複雑な形になります。[参考文献: 山村英穂「トロイダル・コア活 用百科」CQ 出版社(1983)]

従って、高周波での性能は良くなく、もっぱらオーディオ回路(20Hz〜20kHz) で使用されます。 また、変成器はコンデンサに比べて高価で重いです。

しかし、変成器は整合がとれるというメリットがあります。

今まで入力信号の出力インピーダンスは 0 として取り扱ってましたが、ここ では特定の値 Ro とします。 また、単純のため、増幅器の入力インピーダンスは Ri とします。 これまで説明してきた増幅器の接続部分の回路は次のようになります。

  1. コンデンサ結合
  2. トランス結合

コンデンサ結合

1 の回路で Av を求めます。 直列の回路なので、電圧は各素子のインピーダンスに比例配分されます。 直接求めると次のようになります。


A_v = frac{R_i}{R_o + frac{1}{j omega C} + R_i}

これは各素子をどのように選んでも必ず 1 より小さい値になります。

変成器結合

2 の回路でも同様に Av を求めます。 簡単のためインダクタンスの成分を省略します。 宿題の結果を用いると、等価回路は次のようになります。

トランス結合の等価回路

A_v = frac{1}{n} frac{n V_2}{V_1} = frac{n R_i}{R_o + n^2 R_i}

これは n により値が変わります。今までの経験を使うと n2 Ri / Ro が 1 より十分小さい時は Av は ほぼ n Ri / Ro になるので、 nに比例して増加します。 一方 n2 Ri / Ro が 1 より十分大きい時は Av は ほぼ 1/n となり、 n に反比例して減少します。 従って、n の値により Av は最大値をとります。 ここで Avn で偏微分して、最大値を求めます。


frac{partial A_v}{partial n} = frac{R_i ( R_o + n^2 R_i ) - 2 n R_i n
R_i}{( R_o + n^2 R_i )^2}

~ =  frac{R_i ( R_o - n^2 R_i ) }{( R_o + n^2 R_i )^2}

これは n = √( Ro / Ri ) の時 0 になるので、この時 Av は最大値 frac{1}{2} sqrt{frac{R_i}{R_o}} になります。 これは RiRo の関係によっては 1 を越えます。従って、整合を考えるだけならば、変成器 による接合は効率が良くなります。

gnuplot によるAv の特性のグラフ
plot [0:][0:1] x/(1+x*x),x,1/x

6-3. 宿題

(2)変成器とバイアス抵抗を直列に接続する場合についても、(1)変成器の一端 をアースに接続した場合と同様、周波数特性を求めなさい。


坂本直志 <sakamoto@c.dendai.ac.jp>
東京電機大学工学部情報通信工学科