第 2 回 複素数を使った解析

本日の内容


2-1. 便利なツール2

パソコンを使った便利なツールとしてつぎを挙げておきます。

gnuplot
グラフ作成ツール

MuPAD で対数軸のグラフがうまく書けない不具合を見つけたので、代替のソフ トを示しておきます。

2-2. 前回の復習

線形電子回路の特性を調べるため、前期での「交流を流す時は直流電源や コンデンサは導線と見なす」という立場を止め、コンデンサはコンデンサとし て解析をすることにします。 こうすると回路の特性が周波数により変わることをとらえることができます。 但し、物理現象として電磁気学に基づいてそのまま微分方程式を解くのは時と して困難を伴いますので、以下のような手法を用います。

入力は正弦波に限る

フーリエ変換、線形電子回路、微積分の性質により、入力は正弦波に限って解 析するだけで十分です。

正弦波は複素数を用いた指数関数として与える(フェーザ)

正弦波を複素数を用いた指数関数として与え、回路の要素を複素数を含むイン ピーダンスとして表すと通常の回路方程式と同じ手法で回路の性質を調べるこ とができます。

2-3. 複素数の復習

分数の計算

前回、回路の計算で虚数単位 jが分母に来る式が導かれました。 しかし、複素数の値はフェーザの表示 Aejθ にして、大きさと偏角を求める必要があります。

分数の分母に複素数がある時、分母を実数にするには分子、分母とも分母の共 役をかけます。

例2-1

  1       1     1-j
----- = -----×-----
 1+j     1+j    1-j

         1-j
      = -----
         12-j2

         1-j
      = -----
         1+1

         1     -1
      = --- + j---
         2      2

大きさ偏角の計算

得られた分数式が p+jq という形に変形でき たら、大きさと偏角は次のように求めます(復習)。

大きさ = √(p2+q2)
偏角   = Atan (q/p)

例2-2

 1     -1
--- + j---
 2      2

この複素数の大きさと偏角はそれぞれ次のようになります。

大きさ = √((1/2)2+(1/2)2)
       = 1/√2

偏角   = Atan ((1/2)/(1/2))
       = Atan 1
       = 45 度

2-4. 宿題の解答

この回路の電流利得を求めましょう。 I2I1 を使って表します。 抵抗、コンデンサにかかる電圧は等しいのでこれを V とするとこ れは次のようになります。

V = RLI2
        1
V = ------- (I1-I2)
     jωC

これからVを消去すると次が得られます。

          1
I2 = ---------- I1
      1+jωCRL

      I2
AC = ----
      I1
          1
   = ----------
      1+jωCRL

2-5. 複素有理関数の解析

では宿題で求めた利得がどのような性質を持つか調べましょう。

始めに基本通り得られた利得から大きさと偏角を求めてみましょう。

          1
AC = ----------
      1+jωCRL

          1        1-jωCRL
    = ----------×---------
       1+jωCRL     1-jωCRL

       1-jωCRL
    = ----------
       1+ω2C2RL2


大きさ = √(実部2+虚部2)

             1
      = -------------√(1+ω2C2RL2)
          1+ω2C2RL2

             1
      = -------------
        √(1+ω2C2RL2)

偏角 = Atan (虚部 / 実部)
     = Atan (-ωCRL)

このように求めた大きさの式から、直観的な意味を得るのは難しいです。 一方、我々は回路の大まかな性質を調べたいので、このような厳密な計算によ る解析は必ずしも必要ありません。 そこで近似的な解析を考えます。

分数式の近似

教科書で多用されている近似の手法を用いて利得の関数の大まかな性質を調べ ましょう。 ここで使用されている手法とか次のようなものです。

x≪1 の時 1+x はほぼ 1 になる。
x≫1 の時 1+1/x はほぼ 1 になる。
×
x≫1 の時 1/x はほぼ 0 になる。

では得られた電流利得でこれを適用してみましょう。

ωCRL≪1 の時

つまり ω≪1/CRLの時、

          1
AC = ----------
      1+jωCRL
         1
    ≒ ----- = 1
         1

つまり角周波数が 1/CRL より十分小さい 時はほぼ与えられた入力がそのまま出力として得られます。 また位相のずれはほぼ 0 です。

ωCRL≫1 の時

つまり ω≫1/CRLの時、

          1
AC = ----------
      1+jωCRL

            1
         --------
          jωCRL
    = -------------
         1
       ------ +  1
       jωCRL


            1
         --------
          jωCRL
    = --------------
            1


           1
    =  --------
        jωCRL

            1
    = -j -------
          ωCRL

           1
    =  -------- ej(-π/2)
         ωCRL

つまり角周波数が 1/CRL より十分大きい 時は出力の大きさは角周波数に反比例します。 また位相はほぼ 90 度進みます。

gnuplot を使用した作図例(1/CRL = 1 と した)

set logscale xy
plot [10**(-3):10**3] sqrt(1/(x*x+1)),1/x,1,1/sqrt(2)


ファイルに PNG 形式で保存するにはグラフを書く前に次のことをします。
set terminal png small color
set output "graph1.png"

最大値の 1/√2(-3dB)になる周波数を遮断周波数と言います。

2-6. デシベルと両対数のグラフ

前回、利得は dB 表示をするのが普通と言いましたが、 周波数の特性を捉える際、高い周波数、低い周波数と周波数の高低を考えるた め、横軸の周波数も対数のスケールを用います。 なお、周波数が 2 倍にっている関係をオクターブと言います。 対数軸上ではオクターブは等間隔の目盛になります。

比例関係は両対数グラフ上でどのように表されるでしょうか? 一般に比例関係は次の式で表します。

y = ax

両辺の対数を考えると次のようになります。

log y = log x + log a

X=log x, Y=log y と置くと 対数軸上では傾き 1 = 45 度の直線になることがわかります。 電圧、電流に関する dB を考えると 1 オクターブでは 20×log 2 ≒ 6 dB 増 えることがわかります。 このように比例関係は両対数グラフでは 6dB/oct の直線になります。

一方反比例関係は両対数グラフ上でどのように表されるでしょうか? 一般に反比例関係は次の式で表します。

y = a/x

両辺の対数を考えると次のようになります。

log y = - log x + log a

X=log x, Y=log y と置くと 対数軸上では傾き -1 = 45 度の直線になることがわかります。 電圧、電流に関する dB を考えると 1 オクターブでは 20× -log 2 ≒ -6 dB 減ることがわかります。 このように反比例関係は両対数グラフでは -6dB/oct の直線になります。

2-7. 宿題

次の回路の電圧利得を求め、 C,RLに適当な値を入れ、 周波数と利得の関係を示すグラフ(両対数)を書きなさい。


坂本直志 <sakamoto@c.dendai.ac.jp>
東京電機大学工学部情報通信工学科