第 8 回 帰還(2)

本日の内容


8-1. 宿題の解答

宿題

周波数特性が A ( omega ) = frac{A_0}{1 +  frac{1}{j frac{omega}{omega_0}}} で与えられている時、帰還回路ではどうなるか調べなさい。 そして特性が良くわかるようにグラフを書きなさい。

解答

与えられた特性は、低周波で利得は少なく、利得は周波数とともに上昇し、遮 断周波数 ω0/2π 以上でほぼ一定 A0 になるというものです。


A quote ( omega ) = frac{ frac{A_0}{1 +  frac{1}{j frac{omega}{omega_0}}}}
{1 - k frac{A_0}{1 + j frac{omega}{omega_0}}}

~ = frac{A_0}{1 - k A_0 + frac{1}{j frac{omega}{omega_0}}}

~ = frac{A_0}{1 - k A_0} frac{1}{1 + frac{1}{j frac{omega ( 1 - k A_0 )}{omega_0 }}}

これは利得は 1/(1-kA0) になり、遮 断周波数も 1/(1-kA0) になったことを意 味します。 つまり、利得は落ちますが、低周波まで安定した増幅ができるようになったと 言えます。(同じ倍率で割っているので、新しい遮断周波数での利得は元の 比例のグラフ上の点になることに注意)

8-2. 帰還(2)

実際の帰還増幅器(1)

エミッタ抵抗

今まで学んできた回路に対して、帰還回路をどう実現するか考えましょう。 ここでは FET のソース接地回路を考えましょう。

FET の場合、入力は電圧ですが、出力は入力電圧に比例した電流になります。

ソース接地回路

従って、得られた出力電流を電圧にして帰還させる必要があります。 (伝達インピーダンス帰還) そのため、出力に抵抗を付加します。 FETの出力は動作点では電流源なので、出力の抵抗を増やしても得られる電流 は変わらず、出力電圧は変化しません。

ソース抵抗付加

この追加した抵抗 RS の両端の電圧と V1 が入力電圧として直列になるように接続します。

帰還回路

FET のゲートには電流は流れないので、 RS の両端に生じる電圧には影響ありませ ん。 この回路の利得を求めると次のようになります。


V_1 quote = V_1 - g_m R_S V_1 quote

V_1 quote = frac {1}{1 + g_m R_S} V_1

I_2 = -g_m V_1 quote = frac{- g_m }{1 + g_m R_S}

A_v = frac{- g_m R_L}{1 + g_m R_S}

一方、この回路を整理して書き直すと次のようになります。

ソース抵抗

同様に接合型トランジスタでも同じ帰還回路を作ることができます。 図はエミッタ接地回路の帰還回路です。

エミッタ抵抗

この場合、接合型トランジスタの入力は電流ですが、入力を電圧として考えて ます。但し、帰還抵抗を直列にするとき、トランジスタへの入力電流が一緒に 流れてしまうため、FET のように単純にはなりません。

ここで、単純な等価回路をもとに、帰還がどのように働いているか考えてみま しょう。 まず、単純なエミッタ接地回路を考えます。

エミッタ接地回路

この等価回路は次のようになります。

エミッタ接地回路の等価回路

この回路で入力電圧に対してどの程度の出力電流が流れる かという利得 Ay を考えると次のように なります。


I_B = frac{1}{h_{1 1}}V_1

I_2 = - h_{2 1} I_B = - frac{h_{2 1}}{h_{1 1}} V_1

A_y = frac{I_2}{V_1} = - frac{h_{2 1}}{h_{1 1}}

一方、帰還抵抗を加えた回路の等価回路は次のようになります。

エミッタ抵抗がある等価回路

こちらの回路では次のようになります。


I_E = I_B - I_2 = I_B + h_{2 1} I_B

V_1 = h_{1 1} I_B + R_E I_E = ( h_{1 1} + ( 1 + h_{2 1}) R_E ) I_B

I_B = frac{1}{h_{1 1} + ( 1 + h_{2 1}) R_E} V_1

I_2 = - h_{2 1} I_B = - frac{h_{2 1}}{h_{1 1} + ( 1 + h_{2 1}) R_E} V_1

A_y quote  = - frac{h_{2 1}}{h_{1 1} + ( 1 + h_{2 1}) R_E}

~ = - frac{frac{h_{2 1}}{h_{1 1}}}{1 + frac{ 1 + h_{2 1}}{h_{1 1}} R_E}

~ =  frac{A_y}{1 - R_E LRparen{ 1 + frac{ 1}{h_{2 1}}}A_y }

接合型トランジスタ回路の安定

接合型トランジスタ回路は入力、出力とも電流です。 出力電流を入力電流に帰還する回路(電流比帰還)を次に示します。

これは帰還の考え方に基づくと、次のような回路に直せます。

これは入力抵抗を Ri と置くと、帰還率 などを求めることができます。

帰還系の安定性

位相余裕

以前に学んだように増幅器の利得は周波数の関数になってます。 また、利得は一般には複素数であり、それは利得の大きさと位相のずれを表し ています。 コンデンサやインダクタが一つあるだけで位相は最大 90 度ずれます。よって 複雑な回路では、周波数によっては位相が 180 度ずれることもありえます。 これは符号が逆になることを意味しています。

帰還増幅回路において、ループ利得 kA の符号は重要 で、1 以上になってはいけません。 しかし、ここで述べたように、ある周波数で目的の帰還特性を持ったとしても、 別の特定の周波数でループ利得が 1 以上になってしまう可能性があります。 そうなると、増幅器は発振してしまい、安定した動作をしなくなります。 ループ利得自体も周波数の関数ですが、ここでループ利得が 1 となる時の位 相のずれを位相余裕と言います。 また、位相が 0 度の(正帰還になってしまう)時のループ利得の負値を利 得余裕と言います。

gnuplot による位相余裕を判定するグラフの作成

gnuplot を使用して、位相と利得の関係をグラフにし、位相余裕、利得余裕の 読みとりをします。

例として、利得の関数が A 1 ( omega ) = frac{-2}{1 + j
omega} とこれを三段組み合わせた A 2 (omega) = A 1(
omega) ^3 を考えます。 なお、いずれも遮断角周波数は 1 になります。

グラフは、横軸角周波数は log スケール、利得の大きさを log スケールで、 偏角はそのまま(値域は -3.14 から 3.14)書くようにします。 スケールが違うグラフは重ねられないので、利得の大きさの log を求め、通 常のスケールで表示するようにします。

gnuplot でグラフを書く手順
A1(x)=-2/(1+{0,1}*x)
A2(x)=A1(x)**3
set logscale x
plot [0.01:100] log(abs(A1(x)), arg(A1(x))
plot [0.01:100] log(abs(A2(x)), arg(A2(x))

実際に書いたグラフは次のようになります。


グラフからの診断

A1 ではループ利得が 1(グラフ上では log 1 = 0) になる角周波 数は 1 より少し大きい値です(計算で求めると √3)。この時の偏角 2π /3=120 度が位相余裕になります。また、位相が 0 度になることはないので、 この場合の利得余裕は∞になります。

一方、 A2 では、ループ利得が 1 になる角周波数は同じく √3 です。この時の偏角は 0 になってしまいますので位相余裕は 0 度です。 また、利得余裕は 0dB になります。

ナイキストの判定法

帰還増幅回路において、ただ一つの周波数でもループ利得が 1 を越えてしま うと、その増幅回路は安定に動作しません。 ここでは増幅回路が安定に動作するか否かを判定する方法を説明します。

ループ利得は周波数の関数で、値は複素数になります。 周波数に応じて複素平面上の点が一点決まります。 したがって、周波数を-∞から+∞に変化させると、ループ利得は複素平面上に 軌跡を描きます。 これをナイキストの軌跡 と言います。 ナイキストの判定法は帰還系が安定か否かを判定するもので、次の 条件を満たす時、帰還系は安定です。

ループ利得のナイキストの軌跡が点 1 を内部に含まない時、帰還系は安定で す

gnuplot でのナイキストの軌跡の書き方

  1. ループ利得関数を定義する
    A1(x)= -2/(1+{0,1}*x)
    A2(x)=A1(x)**3
    
    ({0,1} は虚数単位、 ** は冪乗)
  2. set parametric でパラメータ t により x, y 座標を指定するモードにする
  3. x座標に実部、y 座標に虚部を指定してグラフを書く
    plot real(A1(t)),imag(A1(t))
    plot real(A2(t)),imag(A2(t))
    

    必要に応じて set nologscale xy で logscale を解除する

実際に書いたのが次のグラフです。


A1のナイキストの軌跡は 1=(1,0) の点を含みませんので、安定です。 A2のナイキストの軌跡は 1 の点を含みますので不安定です。

8-3. 宿題

電流比帰還回路における電流利得と入力抵抗を求めなさい。


坂本直志 <sakamoto@c.dendai.ac.jp>
東京電機大学工学部情報通信工学科