ここでは、量子アニーリングによる量子コンピュータの原理について説明 します。
具体的な解説記事は多数あり、発明者が記している 大関 真之, 西森 秀稔「量子アニーリング」 https://www-adsys.sys.i.kyoto-u.ac.jp/mohzeki/QA.pdf などが詳しいです。
量子アニーリング(Quantum Annealing)は、組合せ最適化問題を解くための 量子計算手法の一つであり、量子力学の断熱定理と量子ゆらぎを利用して、エ ネルギー最小状態(=最適解)を探索します。以下にその原理を、イジングモ デルやスピングラス問題との関係を含めて、若干の数式を交えて説明します。
組合せ最適化問題は、膨大な選択肢の中から最もコスト(またはエネルギー)が小さいものを見つける問題です。これを物理モデルに写像する一つの方法が、イジングモデルです。
イジングモデルのハミルトニアン(古典系):
このようなハミルトニアンのエネルギーを最小化することが、最適化問題の解に対応します。
古典アニーリング(焼きなまし法)は、シミュレーテッド・アニーリングとも呼ばれ、熱ゆらぎによって系を徐々に冷やしながら、エネルギーの低い状態を探索します。 ただし、局所最小値にハマるリスクが高く、エネルギー障壁を越えるには十分な温度が必要です。
量子アニーリングでは、量子トンネル効果を利用して、エネルギー障壁を横からすり抜けるように局所最小値を回避できます。
このとき、時間依存のハミルトニアン:
このハミルトニアンは時間とともに断熱的に変化し、初期状態から最終的に基底状態(エネルギー最小状態)へと遷移させます。
量子断熱定理によれば、ハミルトニアンの基底状態から始めて、ゆっくりとハミルトニアンを変化させれば、系は常に基底状態に留まる(遷移しない)というものです。
より正確には、時間発展が十分に遅ければ、以下のシュレーディンガー方程式:
の解は、最初に基底状態であれば、常にその時点の基底状態 に沿って進む。
重要な条件は、エネルギーギャップ(基底状態と第1励起状態の差)が十分大きいことです。ギャップが小さいと、非断熱遷移(励起状態への遷移)が起こりやすく、誤りの原因になります。
初期ハミルトニアンには (スピンの反転演算子)が含まれており、これが量子ゆらぎ(Quantum Fluctuation)を導入します。これは、古典的な熱ゆらぎと異なり、スピンの状態が同時に複数の状態を取るという量子重ね合わせを実現します。
その結果、従来の古典アニーリングでは越えられなかった高いエネルギー障壁でも、トンネル効果によって回避可能になります。
時刻 | 時刻 | |
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↓ | ↓ | |
→→→ | (最適解) |
用語 | 意味・役割 |
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イジングモデル | 最適化問題を物理的に表現する形式(0/1ま たは±1の変数) |
スピングラス問題 | 複雑な相互作用を持つイジングモデル(最適化が困難) |
断熱定理 | ゆっくり変化すれば基底状態にとどまるという量子力学の法則 |
量子ゆらぎ | パウリX演算子によるスピン反転が導入する不確定性 |
トンネル効果 | エネルギー障壁をすり抜ける現象。量子アニーリングの鍵 |
ハミルトニアン | 系のエネルギーを定める演算子。最小化対象 |